アニメ版『涼宮ハルヒの憂鬱』の商業的成功の要因


涼宮ハルヒのWeb2.0的成功要因分析

@ITで「涼宮ハルヒ」の文字を見ることになるとは思いもよらなかったよ。このセミナーのテーマが何だったのかはいまいちわかりにくい記事だけど、たぶん涼宮ハルヒって言いたかっただけなんじゃないかという気がしないでもない。
ネット上をうろうろしてみると、この記事に対して否定的な意見が目立つんだけど、半ば肯定的に解釈してみよう*1。この記事を踏まえて持論を加味しつつ、何故『ハルヒ』がヒットしているかを数式にしてみるとたぶんこんな感じ。

(原作のポテンシャル+制作クオリティ)×(エンタープライズ2.0係数)
エンタープライズ2.0係数=ブログ等での熱狂+(限られた視聴環境×違法な視聴環境)+販売戦略の妙味+などなど


数学的な知識が無いので、ひとつの式にまとめられませんでした…。
いろんな条件次第では「+」の部分が「×」になることもあるかもしれません。特に『ハルヒ』に限って言えば「原作×制作」に置き換えてもいいかなとすら思えます。*2

まず「原作のポテンシャル」について。原作のある作品をアニメ化する場合、原作が面白ければ面白いほどアニメが面白いという例は例を挙げるのすら面倒くさくなるくらいたくさんあります。『ハルヒ』に関しては2003年に5年ぶりとなる角川スニーカー大賞受賞作ということで、これに対する異論は挟みにくいところです。*3
続いて「制作のクオリティ」に関してはまあ各所でいろいろ語られているのであえて言うまでもないかもしれません。ここを「+」ではなく「×」にできうる最大の理由は、原作がライトノベルという読むのに対して強烈な脳内補完(=脳内アニメ化とも言える)が必要な作品において、必要以上の忠実さでアニメ化したということでしょう。個人的にはアニメ第10話での長門有希vs朝倉涼子の戦闘シーンと第12話のライヴシーンが白眉だと思うのですが、ライトノベルであるが故についさっと流し読みしてしまいがちな原作に対して、これ以上もないアクションを展開しました。あとアニメの第1話とか、ホームページの制作ポリシーとかいろいろあるけど、割愛。

たぶんここだけでも『ハルヒ』はヒットしたんじゃないかと思うし、多くのアニメにとって重要なのはここまでの相乗効果によってヒットするかか否かが左右されると言っても過言ではありません。*4

さて問題なのは「エンタープライズ2.0係数」に関わる部分。ブログ等での熱狂は確かにあったでしょう。昨今のアニメの中で比較するとたぶん抜きん出て多かったような気がしますし、肯定的な内容だったり解析・評論的な言及が多かったのも特徴かもしれません。
続いて視聴環境に関する問題ですが、ここはちょっと疑問が残るところ。独立局系のみでの放送というのは通常であればマイナス要因ではありますが、YouTubeがそれをカバーできたのかというと素直には納得できません。別にYouTubeが無い頃だってWinnyがあったし、もっと古い時代だったら友人同士でビデオやDVDを送り合うなんてこともできたので、いずれにせよ大きなハンデだったことは事実です。YouTubeのような手段によって「従来ならリーチできない範囲にまでファン層を拡大した」というのはいささか過大評価なのではないかという気がします。また近年の商業的ヒット作ということでは『ガンダムSEED』が挙げられますが、TBS系土曜夕方という圧倒的な視聴環境の有利さがあったことを付け加えておきましょう。
最後に販売戦略の妙味について。これは特に関連CDの販売スケジュールが上手かったかなというのは誰もが感じるところです。「ハレ晴レユカイ」をオリコン1位にする運動が、実は制作側が一枚噛んでいたという話がありますが、その善し悪しは別として上手かったというのは認めざるを得ないところです。また12話放送直後に例のライヴシーンの曲をシングルリリースするというのもあざといと感じつつも上手いと言わざるを得ません。ついでにDVDが初回5万本近く出荷したのには、「初回限定版」だったということも一因であることを付け加えておきましょう。

で、話を元に戻すと『ハルヒ』がヒットした要因は「Web2.0的な理由」によるのかということですが、要因のひとつに挙げることはできるかもしれないがそれが全てあるいは大きな要因を占めるというのはいささか言い過ぎではないかと思います。むしろ「面白い原作を、無駄とも思えるほど高いクオリティでアニメ化したこと」の方がヒットの理由として純粋でわかりやすいんじゃないでしょうか。逆にこの前提がなければ「Web2.0的な理由」が存在してもヒットに繋がることはありえないでしょう。

*1:最後まで書いてみたらどっちかというと否定的だな

*2:「−」や「÷」になることもたまにある

*3:本当はちょっとあるけど

*4:そう言ってしまうと宮部みゆき原作の『ブレイブストーリー』が大ヒット確実みたいなことになっちゃいそうだが