オタクに限らず、世代間論争の話

近頃話題になっている岡田斗司夫の「オタク・イズ・デッド」に関して、各所の反応などを見ると非常に思うところはあるんですが、こちらのエントリーを拝見して、少なくとも当日の現場で氏の発言を拝聴していない身としては迂闊な発言は避けるべきなんじゃないかと思いました。まあ同人誌になるとの話もあるようなので、早ければ夏のコミケで詳細を知ることができるだろうから、それを踏まえて感想があるかな。だけどちょっとだけ。というか前から書こうと思っていたことなんだけど、これをきっかけとして書いてみよう。一応、氏の発言そのもの(とそれにまつわるエントリー)に関する感想は抜いてみたつもり。

どうやら今回の氏の発言と、周辺の反応を見ていると「第一世代オタクによる敗北宣言」「世代間格差の哀愁」みたいな感じなのかなと大雑把に思ったんですが、別にこういうことってオタク界では始めてのことなのかもしれないけど、違う分野を見回してみるとよくあることなんではないかと思ってしまうわけです。
まあオタクの世代間論争みたいなのはここ1年くらい各所で断続的に起こってて、いくつかは読んでみたりもしてたんだけど「何を今さらこんな論争が…」という感想が少なからずあったのですよ。今回の氏の発言もその延長線上で、岡田氏が岡田氏であるだけに大きな波紋を呼んでるだけなのかなとも思えてしまいます。

で、それはどうでもよくて。最近一番「世代間論争」という問題について考えさせられたのは5月8日放送の『カンブリア宮殿』だったりします。そう、ミクシィの笠原社長とはてな近藤社長村上龍と対談したアレです。世間では30代前後のITベンチャー社長が「第3世代」と呼ばれているらしく、30代半ばから40代(ライブドア堀江前社長や楽天三木谷社長)が「第2世代」、さらにその上(ソフトバンク孫社長)が「第1世代」とされているそうです。
第1世代がソフトバンク孫社長以外に誰がいるのかがよくわからないんですが、90年代半ばにはインターネットビジネスを確立していた層に対して羨望とライバル心を抱いて起業したのが第2世代ってことなのかな。で、インターネットの隆盛を学生時代とかにユーザーとして体験していたのが第3世代って感じか。
で、この世代っていうのは金に対する貪欲な姿勢がうかがえます。最初からそうだったのか、上場してから心変わりしたのかは何とも言えませんが、テレビ局を買収しようとしたり粉飾決算をしてまで黒字を維持しようとしたりというのは、並々ならない貪欲さではないかと感じずにはいられません。楽天がTBSを、ライブドアがフジテレビを買収しようとしたのと、ソフトバンクボーダフォンを買ったのって、単に巨額買収という側面で見れば「IT企業の隆盛」みたいな一言で片付いてしまいますが、楽天ライブドアは「双方の企業価値の向上」という本音なのかハッタリなのか判断しがたい理由を語っていたのに対し、ソフトバンクは「巨人NTTに対する対抗意識」が丸見えだからわかりやすいんですよね。ソフトバンクの敵がNTTなのは明白ですが、第2世代にとっての敵が誰なのかというのは謎です。「インターネットvs既存メディア」っていうのは間違ってないのかもしれないけど、正しいとも思えない。
カンブリア宮殿』での近藤社長の発言を聞いていると、「この人は純粋に好きなことをやりたいんだなぁ」というのが感じられました。間違ってもはてなは上場なんか目指さないだろうな。ミクシィはちょっと怪しいけど、でもいろんな証券会社から声はかかってるだろうけどあまり乗り気じゃないだろうな。楽天三木谷社長は最初から上場する気まんまんだったろうなと思いますが、ライブドアの堀江前社長はどちらかというと第3世代的感覚を持っていたにも関わらず側近や自民党に騙されてたんじゃないかという弁護的な見方もできるんだけど、その辺は夏の初公判をお楽しみにってところか。

IT企業における世代間の温度差は確実に存在するんだけど、そこは上手く棲み分けとかライバル意識から来る相乗効果があるんではないかと思います。もちろんビジネスの世界だから「上の世代と同じことをやってもつまらん」っていうのがあるでしょうけど。

あと『カンブリア宮殿』つながりで、村上龍芥川賞受賞当時、選考委員の間で賛否が分かれたっていうのと、時代を経て選考委員になった村上龍綿矢りさを(それなりに)誉めたっていうのも、世代間論争という問題を考える上では重要な事件なんじゃないかなと思ったりもして。

話を最初に戻すと、よくよく考えてみると、オタクにとって「世代間格差」が明確に意識されるようになったのってここ数年のことで、実はどのオタクもこの世代間格差論争という問題に戸惑ってるというのが正直なところなのではないかな。端的かつ乱暴に言ってしまえば『ガンダムSEED』や『鋼の錬金術師』が中高生に受けてる理由がわからないっていうのもひとつの事件だったのかなぁなんて思ってしまったり。でも実はこういう問題ってどこにでもある当たり前の問題なのではないかなと感じる部分もあるわけです。つまり、オタクにとってのこの問題って「まだ慣れない未知の議論」なんじゃないかなと。
これを契機にオタク論が盛り上がるといいなとは思いますけど。