「あのね商法問題」って今さらそんなに目くじら立てる問題じゃないとも思えるんですが

世論として、というより一部界隈で問題視されている「あのね商法」について。問題視されてるというより、今回のことをきっかけにして明確な名前がつけられたということだけがエポックメイキングなんじゃないでしょうか。同様の販売戦略についてはテレビアニメのDVD販売が当たり前になったころから散々言われてきてますし*1、「最終話はDVDで商法」以外にもえげつない販売戦略はいろいろと繰り広げられてきていたわけです。

ファンディスク商法

ゲームやアニメでは比較的ポピュラーな手法。映像特典として収録されてもよさそうなものを単品のソフトとして発売する。一般映画では本編より長い映像特典が別ディスクとして同梱されることが多いのに、アニメの場合は何故か1時間程度のファンディスクが別の商品として流通する。

初回限定版商法

これは一般映画でもよく見られる手法。初回出荷分に特典ディスクをつけたり、豪華ブックレットをつけたり、フィギュアをつけたり、化粧箱をつける。

続編商法

たぶん全世界的にポピュラーな手法。人気の出た作品は必ず続編が作られる運命にあり、往々にして回を重ねるごとにパワーダウンしていくことが多い。最終的に第一作が一番面白いという評価をされることもよくある。
テレビシリーズ物の作品(アニメに限らずドラマでも)では「映画化」という手段もよく採られる。

リメイク商法

これも世界的にポピュラーな、昔の作品を改めて作り直すパターン。ファミコンスーファミ時代の名作がプレステで復活とか、ドラマだと『白い巨塔』とか『砂の器』とか、最近だと『Zガンダム』なんかもそうか。
大抵の場合、スタッフが一新されたりするので別の作品として認識されることが多い。新たな価値観が見出されて高評価を得ることがある反面、オリジナルの方が良かったと言われる可能性もある。

曲芸商法

えげつないと言えばコレ。Wikipedia辺りも参考に。それだけ引っ張れる魅力的な素材だという評価もできるんだとは思うけど。

分割商法

ある意味で曲芸商法の進化型、あるいは続編商法のえげつないパターン。新作の発売日に続編の発売を発表する。しかもその新作の中ではオチがついてなかったりする。とはいえ『マブラヴ』→『マブラヴオルタ』で3年は引っ張りすぎだよなぁ。その間、華麗にファンディスク商法を展開という高度なテクニックも展開してたし、『マブラヴオルタ』も何だかんだで売れたみたいだし*2。当の『マブラヴ』も、本当は『君が望む永遠』と同時期に出てるんじゃなかったっけ?

DVDに未放送エピソード収録商法

これに関してはもうちょっと細分化して考える必要があるかと。

DVDで後日談商法

おねがい☆ティーチャー』『おねがい☆ツインズ』のパターン。ストーリーの本筋は放映分で完全に完結していて、DVDに収録されるエピソードは完全な後日談。

DVDで追加エピソード商法

放映された本編がそもそも単発エピソードが基本だったタイプの作品で可能なパターン。今期では『蟲師』が該当。ちょっと古いところだと『MASTERキートン』なんかも成功例なのではないかと思います。

結末はDVDで商法

テレビシリーズでは明かな尻切れトンボのまま放送が終了してしまうパターン。今期で言えば『IGPX』がそうか。記憶に残る限り一番最初にやったのは『バブルガムクライシス TOKYO 2040』(1999年)かな。

思いつくままにいくつか挙げてみましたが、これら以外の類型もあるような気がしますし、さらには合わせ技という高度なテクニックを駆使する場合があります。
個人的にすっかり騙されているのは『ストラトスフォー』ですが、続編商法で延々結末を引っ張りまくり途中ファンディスクを出しながら、そしてもれなく全てに初回限定版があります。予想通り今年頭に発売した「ADVANCE 6巻」でも完結しなかったわけで。*3

問題はこれらの内、「どこまでがファン心理として許容できるか」という問題につきます。明らかに許容されないのは「結末はDVDで商法」でしょう。「結末は気になるけど、果たしてそのためだけにDVDを買う価値はあるかというと微妙だな。ていうか最後だけ買うのもシャクだけど、かといって全巻コンプリートするほど好きかって言うとそうでもないな」というのが一般的ではないかと思います。
「DVDで追加エピソード商法」や「DVDで後日談商法」になると、放映分での一応の結末があるので一般ファン*4の理解が得られる上に、信者*5にとっては「どうせだから未放映分も買っちゃえばいいよね」という心理が働きやすいでしょう。
「初回限定商法」「ファンディスク商法」まで行くと一般ファンには無縁ですし、信者にしてみれば「あぁ、税金税金」と思いがちです。「曲芸商法」や「分割商法」も同様かな。

今期問題になっている作品群の内、『IGPX』に関しては、明かな尻切れの放送最終話であり、これは批判してしかるべきでしょう。『びんちょうタン』『蟲師』に関しては元々が単発エピソードということから、同時期という理由だけで同様の批判がされてしまうのはやや残念なところです。
『かしまし』に関してはおそらくDVDで「もうひとひねりした結末」が描かれるのではないかと想像できるだけに、また別種の批判を生んでいるような気がします。あのような思わせぶりな最終カットを持ってこなくても十分な結末は用意できていたろうに、何故あのような描き方で締めたのかという点は批判を浴びてもしょうがないのかもしれません。ある種の商魂のたくましさからあのような描き方にしたという想像をされてもおかしくありません。

どのような批判があるにせよ、DVDを買う人は買うし買わない人は買わないという事実は今までも存在してきました。「買ってくれる人が買ってくれればいいや」というのは制作者サイドのおごりかもしれません。かつてフジテレビの深夜アニメの無謀な編成に対して非難の声が挙がったことがありますが、今期の『蟲師』なんかを見ていると結局何も変わってなかったのかという気さえします。制作者サイドがファンからの批判の声に耳を傾ける必要はあるのは当然かもしれませんが、声を挙げるファンの方もその声が届いているのかどうか、トレースしていく必要もあるのではないでしょうか。
今回の「あのね商法問題」が単に名前がついたことによる一時的なムーブメントにならないように。

加えてもう一点。今の日本は大量のアニメのほとんどが無料で見られるという事実は改めて認識しておく必要があるのではないかとも思います。「DVDを買う」というような経済活動を伴って始めて、制作者側に始めてリターンがあるという事実を忘れてはいけません。さらに前述のように作品毎にDVD販売戦略が異なるということを踏まえて、一律に「DVDに未放送エピソード」という手法を批判すべきではないと思います。
だからえげつない商法をしてもいいってわけでもありませんが。

*1:そういえばLDの時代は少なかった気がするのは気のせい?

*2:俺は心がくじけた。

*3:残り2巻は「完結編」と銘打つんだから、本当に完結するんだろうな…。

*4:とりあえず深夜放送だったりしてもちゃんと最後まで見ていた方々

*5:その作品を尻切れでもなんでも「名作」だと認識した方々