落日のGONZO

GONZO、というかGDHの業績が芳しくないのは周知の通りで、ついには会社都合による希望退職者募集というリストラ策にまで着手しはじめました。今年だけの時系列でまとめると、こんな感じかな。一応、IR情報にリンクしておきます。
・5月30日…2008年3月期決算短信において、「継続企業の前提に重要な疑義」(ゴーイングコンサーン
・6月30日…債務超過により、東証マザーズの上場基準に抵触
・9月10日…いわかぜキャピタルによるTOBに賛同、経営陣交代へ
・11月28日…希望退職者募集開始

経営状況で見ると07年の3月期は前期比で売上高が上昇しているものの営業利益・経常利益ともにマイナス、翌08年3月期(今年の春)の売上高が減少してしまい営業利益・経常利益ともに大幅なマイナスってところでしょうか。売上高が70億くらいに対して、キャッシュフローも億単位でマイナスに達しているというのも痛いところです。財務指標や経営指標を見るだけだと、ここのところバタバタ倒産している不動産・建設系と似たようなヤバさを感じざるを得ません。
株価推移も公募価格24万円に対して、最高値135万円から2分割を経て先週末の終値が7600円ですから公募価格比で約1/15になっている計算でしょうか*1

GONZOの黄金期っていつだったんだろうと作品一覧を見ながら思い起こすと、『カレイドスター』か『LAST EXILE』辺りの2003年までだったんじゃないかな。その前年が『フルメタル・パニック!』だけど、後に『ふもっふ』『TSR』の制作が京都アニメーションに変わったことも何か時代の流れというか落日っぷりを感じてしまいます。
そういう意味では2008年現在GONZO以外で活躍する演出家・スタッフがその時期のGONZOに関わっていたというのも、ある種の先見性や人選能力があったという意味では評価できると思いますが、そういった人たちが現在GONZO以外での仕事がメインになっているというのも難しいところです*2
逆にそれ以外だと、そっちのイメージの方が強いですが、あまり今現在パッとした記憶に残らない作品も多いというのが敗因じゃないかな。ついでに面白いと思えるような作品でも、商業的な成功が追い付いてないというのがさらなる敗因のようにも思います。
外部スタッフを起用したプロデューサー的な立場だと当たり外れがあったり、むしろ当たる時は通好みの作品に仕上がるけど、自社制作陣をあまり育てられてないんではないかという疑いを持ってしまいたくなります。
今年だけ見てみても、『ロザリオとバンパイア』『ストライクウィッチーズ』『鉄のラインバレル』なんかはクオリティ面やストーリー面でいいと思うんだけど、何故か商業的な成功をする気がしません*3。『BLASSREITER』もそうだし『ドルアーガの塔』もちょっとぐだぐだだったしなぁ。

さて、経営不振の理由として「市場の縮小とDVD売上の不振」が挙げられてはいるけど、本当は違うと思うんですよ。2006年辺りだったら『ハルヒ*4、その後だと『コードギアス』、今年なんかだと『マクロスフロンティア*5みたいにDVD販売面では好調な売上を記録している作品もあるので、GDHの不振はGDH特有の理由があるはずです。
個人的には「通好み過ぎる作品しか作れない」というのと「作品のクオリティにムラがありすぎる」というのが敗因かなと思っています。結果、特に後者の方から通にも飽きられつつあるってところでしょうか。その点では希望退職者を募って制作ラインを絞り、せめて制作でのムラを減らしつつ受ける作品に絞るという政策は正しいようにも思います。だからといってアニオタ受けして商業的にも成功できる作品が出るかというとまた別の問題ですが。

以前に一度当時GDHの社長だった石川真一郎氏*6にお会いしたことがあるんですが、面白い経営者だと思ったのは事実ですが同時にアニオタでもクリエイターでもなく「経営者なんだな」という印象を持ちました。逆にきっと村濱章司氏なんかはクリエイターではあるんだけど経営者としては足りないものがあったのかもしれません。石川氏がいたからこそマザーズ上場もしたし2000年代前半の良作が生まれたようにも思いますが、同時に現在の状況があるようにも思います。この頃に確立してしまったGDH流の資金スキームが上手く回っていればうまく行ったんだろうけど、結果論としては作品のクオリティ*7が追い付かなかった故に資金回収もままならなかったということなのではないかと思います。
他の業種にも言えることだと思いますが、現場に近い人間と経営に近い人間との差をいかに縮めるかというのは難しい問題だと思います。ましてや「アニメ制作」というマーケットのファンの特殊性や特に昨今の投資スキームの複雑化とかを考えると、双方で価値観や方向性を共有して案件を進めていくっていうのは至難の業なんじゃないかなとも。

株式市場では倒産の危機が囁かれつつ、今回のTOBと経営陣交代に関わる一連の施策で危機は一旦去ったような受け止められ方をしているのかと思います。下方修正もしちゃったし、そうでもないのかもしれんけど。
でもアニオタ的にはたまーに面白い作品を捻り出すことがあるので、目が離せない会社ではあります。一時期、それこそ2003年頃に比べると注目のプライオリティが下がってしまったのは事実ですが、なくすには惜しいポテンシャルを持っているはずの会社だと信じています。*8

*1:増資等による希薄化考慮せず。最高値比だと計算するのも涙しか出ないけど、約1/177ですか…

*2:カレイドスター』の平池芳正とか『フルメタ』の志茂文彦とか、比較的最近だけど『RED GARDEN』の松尾衡とかかな。

*3:とはいえ『ストパン』でギリギリかな。作画面ではやや低調だったとは思うけど。

*4:2007年3月期の角川の利益にはかなり貢献したと思われる

*5:バンダイビジュアル上場廃止しちゃったからどうなんだろ?

*6:悲しいけど過去形なのよね

*7:特にシナリオ面が大きいかなぁ。だから「原作クラッシャー」なんて言われてしまうわけで。そういう一面に限らず最近のGONZO作品はおしなべて何か足りない感が強い。

*8:といいつつも投資対象にする気はあんまりない