成熟する王道、迷走する意欲作

3月末で終わったアニメや4月から始まったアニメを見ていて、こんな感想を抱きました。この二元論が正しいのかどうかは若干議論の余地はあるけど、どちらもやや広い意味で「王道」は今までのパターンなどから比較的ヒットの方程式めいたものが見え隠れするもの、「意欲作」は逆に従来のヒットパターンとはあえて外したところを狙ってたりそもそもそういうのが持ち味であるスタッフや制作陣が絡んでいる作品を指します。ピンポイントではオタク向け作品と言い換えてしまってもいいかもしれません。

春までに終わった番組で一番面白かったのは、何度か書いていますが『NANA』です。というか『NANA』に限らず人気原作を持つアニメが軒並み面白かったように思います。『武装錬金』『DEATH NOTE』なんかも面白かったし、同じくジャンプ系では『BLEACH』『NARUTO』なんかも高位安定が続いてるように思いますし*1、『D.Gray-man』が意外と面白いとか、ネタ的には「意欲作」のカテゴリに入れてもいいのかもしれないけど『銀魂』に関しては言わずもがなな感じ。他の雑誌でも『ハヤテのごとく!』はまああの狙ってるところに見事に騙されてるような気もするけどそれがまたたまらんところだし、『のだめ』も勢いがいいのとやはり音楽の扱い方にはちょっと目を見張るところがあったりします*2
同じく王道系作品という点では、『Yes!プリキュア5』の評価に悩むところがあるんだけど、良くも悪くも「4年目だからこそ」という部分を多く感じます*3。春で終わった『デジモン』も昔のシリーズの方が良かったという感想があるのが正直なところですが、久しぶりのシリーズにも関わらず、『デジモン』が『デジモン』らしくあったという意味で評価はしています。

一方「意欲作」系の作品について迷走っぷりを象徴するのは、『らき☆すた』の監督交代劇と『天元突破グレンラガン』に関連した赤井孝美氏の取締役辞任騒動による印象が強いのは言うまでもありません。他に象徴的だったのは『天保異聞 妖奇士』が事実上打ち切りになり、後番組に『地球へ…』が入ったというのも面白いところです。あるいは決して面白くなかったわけではないけど『コードギアス 反逆のルルーシュ』で総集編が多かったことと、やや強引に一時終了→第二部という流れを取っていることも何か裏での迷走があるのではないかと勘ぐってしまいます。
そこまで象徴的な事件がない作品でも、アニメオリジナルの作品だったりオタク向け色の強い雑誌に連載されているアニメ化作品についてはあまりポジティブな印象を持てませんでした*4。そういう類型に当てはまる新作については一応期待はしてますが、序盤から強烈に来るものがいまいちないというのが正直なところです*5

単純に面白い・面白くないで二分できる話というよりも、面白いと思った作品でもどうもパッとしない部分があったり釈然としない部分があったりしたように思います。それが特に「意欲作」にカテゴライズできたり、あるいは主要なターゲットがオタクに向いている作品が多いんじゃないかと漠然と感じます。
アニメのDVDが売れなくなってるとか、オタク向けのアニメビジネスのビジネスモデルが崩壊してるとかっていうのは近年言われるようになったと思います。一方で前掲したような王道パターンを持っている作品はDVDはともかくとしても、原作や関連商品が比較的まともに売れているような印象も感じています。

もうひとつ、別の視点では東映アニメーションGDHの業績と株価推移に着目してみると面白いモノが見えてきます。東アニは王道アニメの大御所、一方のGDHは意欲作の大御所といっても過言ではないでしょう。両社とも新作アニメの制作だけが事業ではないので一概に比較することは難しいですが、東アニはほぼ前年と同程度の売上・利益が予想されていますが、GDHは売上高の半減と26億の赤字予想がされています*6。株価も東アニはその他の追い風もあり順調に年初来高値を更新していますが、GDHは昨年のライブドアショックと今年2月の世界同時株安などの影響もあってか、上場来安値を更新中です。
アニメ関連株では他にも上場している企業が何社かありますし*7、あまり一概に言えることではないんですが、この2社の状況が何か今のアニメ業界のトレンドを暗示しているようにも思います。

「面白いアニメ」と「売れてるアニメ」は得てして一致しないものですが、「面白いアニメ」でも商業的には売れてないという状況がここ数年存在したのは事実ではないかと思います。当然の帰結として「面白くないアニメ」が売れるわけがないというのは想像に難くないところですが、「面白いアニメ」でもなかなか思うように売れないとなるといろんな迷走を招いてるんじゃないかと思ってしまいます。だからこそ人気原作があれば比較的安全パイだろうという論理展開も可能なのかもしれません。
一方で『ガンダムSEED』『ハルヒ』、さらに直近では『コードギアス』のようなDVD販売型ビジネスモデルでの商業的成功もありますが、いずれも成功の要因は異なっているという分析ができてしまうので、だからこそ制作側が手探りでいろんなことをやってみているのが、一歩間違うと迷走しているように見えてしまう状況があるのかも知れません。

*1:『ONE PEACE』がちょっとダレてきてる気がするけど、昔の『ドラゴンボール』に比べればはるかにマシ

*2:周囲では原作派・ドラマ派でやや意見が分かれてたりしますが

*3:これはこれでまた機会があればレビューしたいところです

*4:まなびストレート』はちょっと評価に悩んでる

*5:いや、『らき☆すた』は面白いんだけどね。あとは『ながされて藍蘭島』と『エル・カザド』くらいかな。結構あるな…

*6:いずれも直近の会社四季報と会社予想等より

*7:プロダクションIGは売上は前年同等で減益予想なのかな。株価は下がりまくってるけど