何故、声優は一般芸能シーンと乖離するのか

水樹奈々の「THE MUSEUM」を聞いていたら、今さらながらこの人を見直しました。「Heaven Knows」とか「POWER GATE」の頃にも「この人上手いなぁ」という感想を持っていたものの、「WILD EYES」「ETERNEAL BLAZE」で評価し直せたというのもありつつ、こうしてベスト盤という格好で聞き直してみると改めてやっぱ上手いと思わざるをえないわけです。

水樹奈々の素晴らしさを語りつつ何故一般人には知られていないのかみたいな論理展開をすると、頭の悪い中学生みたいな論調にしかならないのでやめますが*1、得てして声優だったりアニソン歌手と呼ばれる人たちは一般の音楽シーンとは評価が一致しないのが常となっているのではないかと思います。「一般」の定義は難しいとは思いますが、ある種の基準として「歌番組に出る」とか「芸能ニュースで取り上げられる」とかそういう類の歌手をイメージするとわかりやすいでしょうか。売上規模だけで言えばそういうタイプの歌手と同等以上の声優は水樹奈々を筆頭に少なからずいます。
あるいはもうちょっと範囲を広げて考えてみても、例えばスキャンダルがスポーツ新聞に載ったりとか、そこまで行かなくても芸能ニュースに比較的プライベートな話題が取り上げられるというのは極めてまれです。

これを「差別だ」と思う風潮が少なからずあるように思います。それが端的に噴出したのが「ハピマテ運動」だったりするのではないかと思います。しかしながらそのような「差別」が何故行われるのかというのはあまり気にされていないような気がします。水樹奈々をBGMにちょっと考えてみたんですが、意外と単純なところに根があるのではないかという仮説に至りました。

一番大きいのはそもそもニーズがないからでしょう。正確にはどちらかというとニッチなニーズしかないという方が正解かな。声優に関する芸能ニュース的な話題はオタク受けはいいとしても、そうでない人には興味の惹かれない内容なのは言うまでもありません。水樹奈々のベスト盤のオリコン動向よりオレンジレンジとかコブクロとか*2そういうミュージシャンの話題の方が、当然ながら一般の視聴者にはわかりやすいという事実があります。
もうひとつは想像ですが、事務所なりレコード会社の方針としてそういうタイプの露出に興味を持っていないという点があるのではないかと思います。これも「そもそもニーズがない」というところに繋がるのかもしれませんが、アニメファンや声優ファンだけを向いていれば商売としては成立してますし、それ以上のファン層の拡大を目指すことは声優としての本分を見失いかねないという自浄作用が働いているのではないかと思います。*3

巡り巡って考えると、「声優はそもそも芸能人なのか」という疑問に行き着いてしまったのですが、広義ではもちろん芸能人なのかもしれませんが、ある種の職人性が必要とされるという点で一般の芸能人とは一線を画しているのは事実でしょう。例えば歌舞伎俳優とか落語家なんていうのは職人性とか閉鎖性という点で近しいものがあるのかもしれませんが、どちらかというとニーズが高齢者層に寄っていることやある種の国民性があり、ニーズが見えやすいというところがあるのかもしれません。

では声優が良くも悪くも一般の芸能人と同等の扱いを受けるようになる日が来るのかというと、たぶん来ないような気がします。何かの弾みで声優発の国民的アイドルでも生まれればピンポイントでは注目されるかもしれませんが、広く声優の話題が取り上げられるようなことはないような気がします。何につけてもアニメを引き合いに出さないと説明できないというのが最大の理由でしょうか。「HEY!HEY!HEY!」に水樹奈々が出たときも平野綾が出たときもそうでしたし。そうでもしないと話題にできないっていうのは、話題にする側にすると面倒くさいのではないかと思います。
思えば十数年前に声優専門雑誌が創刊されただけでも革命的な出来事だったように記憶していますが、緩やかな広がりこそあれ、今も昔もそのニッチなマーケットからは脱却できていない、もしくは脱却する気が無いのではないかと思います。それが非専門メディア、つまり一般メディアでの取り扱いにも繋がっているのではないでしょうか。

*1:ちょっとだけ書くと、歌唱力の高さに加えてサポートメンバーに恵まれているというのが大きいのではないかと思う

*2:めざましテレビの芸能ニュースから得る俺の「一般ミュージシャンイメージの典型」として挙げただけで、他意はありません

*3:全然関係ないけど、仲間由紀恵が『HAUNTEDじゃんくしょん』に出てたのは何で黒歴史なんだろう…