評論同人2.0?

各所から反応いただきありがとうございます。ちょっと思うところのある話題なので続きということで、コメント等にお答えしてみたいと思います。
今回のタイトルは秋水さん*1より、某所経由で拝借。

ネットメディアにおける議論の必要性

これには元々ネットメディアに限らず、議論の場がどこかにあったのかという考察から始めなければならないように思います。コミケにおける評論同人がそういう場だったかというと、たぶん否でしょう。あの場って物理的・時間的な制約によって、あまり一人の方と長々お話することって難しいというのがあります。実はブログでコメントやトラックバックのやりとりを繰り返すのとそんなに大差ないのではないかなという印象があります。広い意味での評論的な話題がはてな村界隈で盛り上がることがありますが(最近だと非モテ論争とか文化系女子論争とか)、あれは一応議論として成り立ってるんではないかなと思うわけです。
ただしブログの場合は、オーナーと閲覧者という絶対的な上下関係が存在するが故に水平な立場での議論は成立しにくいのではないかとも思います。ブログ界隈でおける議論は「あの人はああ言ってるけど、オレはこう思う」みたいな往復書簡みたいな内容にしかならないんでしょう。トラックバックという機能は「オーナーと閲覧者」という関係を「ブログのオーナー同士」という比較的水平な関係にする優れた機能なのではないかと思います。それはそれでいいんでしょうし、成立することは多いとは思いますが。
ネット上に水平な議論の場を求めるとすれば、mixiのようなSNSのコミュニティか2ちゃんねるに行かざるをえないのかと思います。ただどちらにしても、話題が受け狙いのネタに走りがちという風土ができてしまっているので、評論同人的な、あるいはブログ的な議論は成立しません。真面目に話題を振っても議論が成立しないことが往々にしてありますし。
それこそインターネットが流行する以前の時代は、パソコン通信の世界で議論が成り立っていた記憶があります。当時も今も「掲示板」という仕組み自体はたいして変化が無いのに、今はそれが成立しないというのは風土的な問題と、あとは今がインターネットそのものが「誰でも参加しやすい世界」になってしまったというのが大きいのかな。

同人誌だからできること、ブログだからできること

単純に文章を書くだけであればどちらでもできます。その中で特に手軽さと速報性という点でブログに軍配が上がるというのは異論の挟みにくいところでしょう。評論同人がブログ化しやすい理由は、まさにそこに尽きてしまうと思います。いわゆる「アニメ感想サイト」みたいなのがかなりの数存在すると思いますが、もはや同人活動よりブログの方がスタート地点になってる好例ではないかと思います。
はてブコメントでid:kanoseさんから頂いてる「同人誌じゃないとできないor同人誌のほうが見せやすいものはあると思うけど」っていう指摘は正しくて、むしろそれを同人誌・ブログとあと商業誌で使い分けてるのこそid:kanoseさんなんじゃないかなとか思ったりもします。端的には文章量の大小と速報性の有無で分けてしまうのが簡単だとは思いますが、そんなに単純な話でもないでしょう。

最近だとメカビとかオトナアニメが出版されたというのも興味深いトピックで、あれは大手出版社が間違えて本気を出して作ってしまった評論同人誌なんじゃないかと思っています。現在のアニメ界に対する全方位爆撃してるような内容なので、ブログとかでちまちまと取り上げるより、一冊の本としてまとまっているのが正解な極端な例だと思いますが、出版社がああいうことをしてしまうと素人が評論分野で紙の同人誌を作る意義がますますなくなってしまうような気がするんですよね。取材力と編集力の圧倒的なアドバンテージっていうのは、ある意味卑怯ですよ。
それに加えてブログもあるし2ちゃんねるmixiもあると、「評論同人誌だからできること」を探ることって難しくなっているのかもしれません。ブログ特有の「炎上」という現象からは比較的無縁だというメリットはあるのかもしれませんが、だからこそできるネタってなんだろうと考えると、これはこれでまた難しいもんです。何だかんだでネット上で代替されてしまっている気がしないでもないんですよ。
創作文芸なんかのジャンルだとWeb上よりオフセット本にした方が読みやすいっていう物理的な要因が大きいとも思いますが、評論ジャンルについてはブログの力もあるし既にその手のサイトが充実してきてる感があるので、コミケにおける意義が薄れてきてしまっているのかもしれません。

コミケに参加する意義

じゃああえて評論ジャンルで紙の同人誌を作る意義って何かと考えたときに、実はコミケにサークル参加することそのものが目的になってしまうのかもしれません。手間暇かけて編集して印刷して、あの場のあのムードの中の6時間程度の間に売って、時として直接感想を聞かせていただいたりっていう快感はやったことのある人にしかわからない感覚だと思います。
まるで巡礼者のように大手のサークルにばかり並びまくるということをやったことがないので、そっちの喜びっていうのは正直わからないんですが、結局の所サークル参加ってそれはそれで楽しいんですよ。お盆や年末の朝っぱらに東京駅に集合して、タクシーに前回残ってしまった同人誌を積み込んだりしてビッグサイトに乗り付けて、コスプレしたりしながら頒布して*2、何故か常連の人が来てくれたりしてその場で直接感想を頂いたりして、終わったら終わったで新橋辺りに繰り出してその日の売上*3で売り子をしてくれた人たちと一緒に飲んだりする、そんな一日が純粋に楽しいわけです。

うーん、懐古趣味みたいになってきたなぁ。まあ退役同人のぼやきであることは否定しませんが。
ブログをやる人も評論系で同人をやる人も「たとえ独り言みたいだとしても、言いたいことがある」っていう源泉は変わらないと思うんですよね。単なる場の問題とか雰囲気の問題でしかないのかもしれません。だからといって評論同人が死んだとも思いませんし、文章系同人全般にまつわる話題で言えば、ケータイ小説が人気を呼んでビジネス化したりする事象がある反面、文学フリマが盛況だという話題もあるので、まだまだ同人誌だからこその良さや即売会だからこその良さを模索する余地は大きいのではないかと思います。

*1:思えば秋水さんに初めてお会いしたのもコミケだったなぁ

*2:そんなことしてたんだよ

*3:儲けではないところがミソ